もしも僕が死んだら 笑って忘れてくれよ

つばきのボーカルである、一色徳保が、2017年5月9日に、この世を去った。脳腫瘍であった。この事実を知ったのは、ふと眺めていたテレ朝の、ミュージックステーションに出演していたSuperflyのサポートベースが、つばきの小川さんだった事から、Googleで、最近の彼らの様子を拝見しようと調べていた時のことである。

 

そもそもつばきとは何であるか、そういった初歩的な問いから解いていく必要にあるが、こちらを参照下さい。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/つばき_(ロックバンド)

 

2000年から活動している下北系ロックバンド(と当初は括られる傾向にあった)。内省的な歌詞と、シンプルな楽曲構成、類い稀なる楽曲ライティングで、当時のバンドシーンの勢いを牽引していた(のかな)、3ピースバンド。皆さん大好きなロッキンにも出演したこともあります。

 

作詞作曲は、一色さんが主に担っています。非常にポップで、感情を揺さぶられるカタルシスな楽曲が多い上に、心の内側をビシバシえぐるようなネガティブな歌詞、だけれどもそこからポジティブに変換していく作風が、彼の持ち味だと僕は思っています。

 

つばきと出会ったのは、大学生の頃。ロックってなんだらほい、とりあえず、有名なバンドを聴く気にもなれないし、手当たり次第聴いていこう、その内の1組がつばきです。キッカケが何だったのか、全く覚えていませんが、当時、僕は体調不良が慢性化して、死んだような毎日を過ごしていました(この不良は今なお続く)。鬱々とした退屈な毎日、明るい言葉で励ましてくれることの鬱陶しささえも感じてしまう、心が乱れた青春を送っていた僕が、一番に心の拠り所としていたものは、音楽でした。その中で、つばきは当時の僕にはうってつけの存在であったと思います。

 

 

「僕みたいな奴はきっと こんな所にいるべきじゃないとか
そんな事を思うよ
誰の言い分もいつだって 正論に聞こえるし
何が正しいのか なんて分からないから

笑って流せる そんな奴になりたいな
心の隙間に 誰かの言葉が剌さる

もう誰の言う事も もう過去の自分にも
惑わされずに この世界を行けたならば…」

つばき - ココロ

 

出だしがもうネガティブな言葉で、その言葉に誘発されるように、ああ、僕はこの場所にいるからこんなに苦しいんだなーと、周囲に溶け込まない自分に対する言い訳を作り出せてしまう当時の僕がいました(体調不良を理由に、あと単純に、気の合う人間がいませんでした)。ただ、それを思い起こすことで生まれるカタルシスに、酔うことも出来たのです。それは、結果的には癒しとなりました。つばきは、そういうバンドです。

 

このココロという楽曲、締めのサビでは、どの道を選んでも冷たい風が吹くのなら、もう迷わずに前へ進もうという、諦めにも似た一つの生きていく術と、心の方向転換の方法を教示してくれていたりします(あくまで僕が思うに、ですが)。花火というシングルのカップリング曲なのですが、果てしなく絶望を感じた後に救いの手を差し伸べるられるでもなく、それでも生きていくという孤独の強さと、当時の不安定な自我とのマッチングがなされ、僕にインパクトを与えました。今聴いても、その当時の想いを彷彿させてくれます。

 

歳を重ねていくと、昔聴いていた音楽から遠ざかる傾向にありますが、それはきっと、その当時の自己と、今現在の自己との意識には明確な差異があるからだろうと、感じざるを得ないのです。自己は、今見える世界を通して自分を見ています。鏡に映った自分は、本当の自分ではなく、あくまで虚像。鏡という道具を持って初めて自分の姿を映し出せるが、それは、自分の目を通してみた自分の仮の姿。自分の目では自分を見ることは出来ない。いくつかの物質に対して、その時々の自己が、共鳴する物事に注意を向けることで、モノと自己との距離を縮めていく。簡単にいえば、ネガティブな僕が出会ったつばきというバンドは、その当時の僕と共鳴していて、だからこそ深い繋がりが出来たと言える。聴かなくなった今は、当時の僕が、もうここにはいないからだ。

 

今日、ふとしたきっかけで知ることになった訃報。彼らの楽曲を聴かなくなってから、7年ほど。つばきは、僕のことを知りません。しかし、僕はつばきのことを知っています。あの頃の苦しい思い出と共に、あの時間軸に記憶を眠らせています。一色さん。僕はあなたのおかげで、あの頃の僕を生きることが出来ました。それはもう、酷く退屈で、誰からも賞賛されないような暗い日々でしたが、僕の思い出を、一緒に作り上げて、僕の人格に少なからず影響を与えて下さいました。音楽活動の意味とは、活動している最中に見出されるものではないのかもしれません。きっと、売れたい想いもあったのかもしれませんが、僕は、あなたがこの世から去ったとしても、または、奇跡が起きて今もなおこの世におられ、つばきとして音を鳴らしていたとしても、僕にとって、あなたがこの世にいたこと、あなたがこの世に残してくれた音楽それぞれには、大変な意味があります。それは、僕以外のリスナーや、音楽関係者、身内の方々全員にも言えることです。あなたがこの世に生まれてきてくれたことが、僕を、あの瞬間を生かしてくれた。

 

弔辞と言うには、あまりに勿体無く感じますが、この声があなたに届きますよう。お悔やみ申し上げます。全てをありがとう。

 

つばき - 花火

https://youtu.be/MHL8ymQ5Kdk